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住基ネット自治体経費調査レポート/所沢市・埼玉

所沢市調査レポート

住基ネット利用住民サービスは「使えない行政サービス」
75%の人件費をそのままに、「IT導入経費」を上乗せ

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◆調査レポート・調査マニュアル◆

住基ネット自治体経費追究キャンペーンの予備調査報告(所沢市・檜原村)がそろって公開になりました。
本調査のための実践的なマニュアルがあります。調査活動は思いのほか簡単です! 多くの地域からの「住基ネット自治対経費追究キャンペーン」へのご参加を、よろしく!

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●以下は抄録です。ダウンロード版の調査レポートをご参照ください。

調査方法

主要収集データ項目41項目、調査対象期間2004-2008年度・対照年度2000年度。内公開資料をで収集可能なデータ以外は、自治体に情報提供依頼を行いデータ提供を受けた。詳細は「調査マニュアル」参照。

サマリー

所沢市の調査の結論は、以下の3点に概括できる。

I 所沢市の住基ネット利用住民サービスは、
 使えないのにきわめてハイコストになっている

II 所沢市の戸籍住基事務経費(住基ネット経費を含む)は、
 従来の労働集約型業務・経費構造を維持しつつ、
 大型設備産業型コスト構造が上乗せされ、増大した
 
 
III コメント:所沢市は、こうした問題の改善のために
 市町村によるコストコントロールが可能な
 電子政府・電子自治体の構想を必要としている

所沢市の住基ネット経費

以下の住基ネット経費は、職員人件費を含まない(調査対象年度の通年平均)
(所沢市の人口規模:約34万人/歳出総額:約1,448億円)
 住基ネット経費
  23,904,400円/年
 住民1人あたり住基ネットコスト(住民単価)
  71.07 円/年
 サービス1件あたり住基ネットコスト(サービス単価)
  620.60 円/サービス
 転出転入事務処理における「郵送」通信コスト算定値に対する
 住基ネット利用通信コストの増減率
  1876%

住基カードの普及状況(2008年度)


 対住基人口有効普及率:2.46%
 住基カード交付時写真付きカード交付比率:78.03%
 公的個人認証電子証明書有効普及率:0.92%

住基カードの利用状況(通年平均)


 住基カードを利用した転出転入件数:7.60件/年
 住民票の広域交付件数:370.80件/年
 住民票の交付総数に対する広域交付利用率:0.18%
 有効住基カード1枚あたり広域交付件数:0.05件/年
 ・これは、住基人口1人あたり交付件数の約10分の1であった

結論とコメント

I. 所沢市の住基ネット利用住民サービスは、
使えないのにきわめてハイコストになっている

所沢市では、「住基カードを利用した転出転入手続き」(付記転入手続き)の利用はあまりに少数であり、有効な需要は存在していない。これは、住基カードの有効普及率が2.46%(2008年度)と低迷していることなどのほか、従来から指摘されてきたように多くの世帯では転出転入手続きと同時に市町村の窓口で他の手続きをする必要があることなどが原因と考えられよう。「付記転入」(転出転入における住基カードの利用)という住民サービスは「転出転入」の実態に適合していない「使えない行政サービス」である。

また、住民票(「住民票の写し」を以下単に住民票と略記する)の広域交付に対する需要も、通年平均で370.80件で、これは交付された住民票の0.18%にすぎない。住基人口1人あたりの年間住民票交付件数0.6379件(通年平均)に対して有効住基カード1枚あたりの所沢市民への年間広域交付件数は約10分の1の0.0516件である。住民票の交付をよく利用する住民が広域交付を利用しているわけではない。広域交付もまた、「付記転入」と同様に「利用実態に適合していない」ため「使えない行政サービス」になっていることが十分推測される。

これに対して住基ネットサービスのコストを見ると、通年平均で1件あたりのサービスコストは620.06円になっている。このサービスの約90%は転出転入事務における市町村間の住民情報の通信であるが、これは住基ネット導入前には1世帯80円の切手代で行われていた事務処理である。この結果、住基ネットを利用した転出転入事務の通信費は、郵送で処理する場合の通信費に比べて18.76倍に増大している。

 サービスの提供数が拡大すればサービス1件あたりコストは低下する。従って、所沢市における2008年度の2.46%という有効住基カード普及率が十分に大きくなれば、転出転入事務の通信費は郵送費以下になると言えるかもしれない。しかし、前述したように他の住基ネット利用住民サービスは住民から見て「使えない行政サービス」であり、サービスへの需要が大きく拡大する可能性はない。実際、広域交付では、その利用数の増加は有効住基カードの増加に追随していない。付記転入では、利用数は減少傾向を示しているように見える。

「使われていないからハイコストになっている」のではなく、「住基ネット利用住民サービスが使えない」ことと「住基ネットがハイコストになっている」こととはそれぞれ独立した「住基ネットの問題」と考える必要がある。端的に言えば、住基ネットは「ユビキタス社会構想」のような仮想された膨大なサービス需要を前提とすることで、コスト設計に失敗している。しかし所沢市は、これを修正することができないまま、ハイコストで需要のない住基ネットの運用を続けている。

なお、2006年度から2007年度にかけて、「インターネット確定申告」のために住基カードおよび公的個人認証電子証明書の交付を受ける市民が急増していた。ただし、2008年度の住基カード交付数は前年度交付数を下回り、「ブーム」は鎮静に向かっている。所沢市のおける公的個人認証電子証明書の有効普及率は0.92%であり、この拡大が1件あたりのサービスコストを大幅に低下させる可能性は今のところない。

II. 所沢市の戸籍住基事務経費(住基ネット経費を含む)は、
従来の労働集約型業務・経費構造を維持しつつ、
大規模設備産業型コスト構造が上乗せされ、増大した

所沢市の戸籍住基事務経費(住基ネット経費を含む)を見ると、その4分の3、通年平均で76.56%を人件費が占めており、典型的な「労働集約型業務」であることが分かる。人件費は、住基ネット導入前(というよりも、「電子政府・電子自治体」――IT導入の推進以前)の2000年度に比べてめだった変化はない(2008年度では、正規職員の人件費がやや減少し、それを非正規職員の増大で埋めることで、総額ではほぼ2000年度と変わらない)。

固定的な人件費に対して、「住基ネット経費」と「その他の経費」(住基台帳・戸籍・住民情報・外国人登録などのシステム経費がその大半を占めると考えられる)は大きく変動している。住基ネット経費でこの変動の特徴を見ると、ほぼ定額の「リース費」(割り引かれる年度がある)および運用保守費(多少の変動がある)と、数年に1度かなり大きな金額が断続的に発生する「開発費」(大きな変動要素)で構成されていることが分かる。所沢市の場合この構成比は通年平均で50 : 40 : 10というとてもシンプルな比率であった。

このような経費構成は、いわゆる「設備産業」にしばしば見られる特性と言ってよいだろう。設備投資額(開発費+リース費の大部分)がとくに大きく、経常的なシステムの維持運用費(保守費)も高額となるため、一定規模以上のアウトプットがある「設備」(大型設備)でなければ採算がとれないが、アウトプットの量的拡大にともない大きなスケールメリットが得られる――というコスト構造である。こうした「大規模設備産業型コスト構造」が、所沢市の「システム」の経費を規定している。

戸籍住基事務経費における「その他の経費」も、その多くはシステム関連経費(複数のシステムの経費)なので、同様に「開発費」を変動要素とする「設備産業的コスト構造」が反映されていると考えられるが、所沢市の戸籍住基事務経費に特徴的なことは、2004年度以降の経費は、2000年度の固定的人件費などの上に、この「設備産業的コスト構造」を持つ経費(住基ネット経費を含む)が「上乗せ」されていることである。この結果、通年平均の戸籍住基事務経費総額は、2000年度実績を上回ることになった。

この「設備産業的コスト構造の上乗せ」の影響を受けて、所沢市の戸籍住基事務経費は中規模自治体が得ていた従来のスケールメリットの多くを失っている。

 人口10万人の標準的自治体における基準財政需要額(地方交付税交付金の算定基礎となる数値)の戸籍住基事務算定基準(世帯あたり単位費用・戸籍あたり単位費用)を所沢市の世帯数・戸籍数に適用してみると、2000年度には標準的自治体に比べて19.63%減の「スケールメリット」が観察できたが、2004-2008年度(電子政府・電子自治体の推進以後)の通年平均では、このスケールメリットは2.69%に縮小している。住基ネットを含む「電子政府・電子自治体構想に基づくITのシステム」は、34万人規模の所沢市から見ても「過大な規模の設備」として設計されていると言えるだろう。

III. コメント:所沢市は、こうした問題の改善のために
市町村によるコストコントロールが可能な、
電子政府・電子自治体の構想を必要としている

所沢市における住基ネット経費調査の結果を整理しておこう。

  • 市は、「使えない行政サービス」のためにハイコストのシステムを運用している
  • 市は、典型的な労働集約型業務としての戸籍住基事務に対して、「住基ネットを基幹とする電子政府・電子自治体構想によるITのシステム」を導入したが、それは戸籍住基事務の人件費を圧縮するものではなかった
  • 市は、「電子政府・電子自治体のシステム」を導入することで、人口30万を超える中規模自治体として獲得していた戸籍住基事務経費のスケールメリットの多くを失った。

しかしこうした不利益を回避することは、所沢市(市町村)にはできない(国立市と矢祭町の例外はあるものの)。たとえば、住基ネットの「使えない行政サービス」の提供を停止して、都道府県への本人確認情報の提供だけに限定する「住基ネット」の運用をしても、所沢市の住基ネット経費負担は減額されない。国立市・矢祭村のように住基ネットの運用自体を停止(切断/不接続)してリース契約を解消するには、「切断の合法性/違法性」という、政治的な「とてもめんどうなテーマ」に正面から取り組まなければならないが、所沢市(大多数の市町村)にはそこまでするメリットは存在しないと理解されているはずだ。結果として所沢市は、この自治体経営上のむだを「コンマ以下の問題」――歳出総額のたかだか0.0166%、住基人口1人あたり71.02円でしかない住基ネット経費の問題として忘れ(ようとし)ている。

実際問題、少なくない自治体にとって、この程度の問題は「忘れていい自治体経営上のむだ」あるいは「忘れた方がいい自治体経営上のむだ」だろう。しかし、この「電子政府・電子自治体のむだ」は住基ネット経費や戸籍住基台帳事務経費だけで起きているわけではない。小規模自治体のレベルでは「システム経費の総額が自治体歳出の10%を超えているのは大きな問題」などとする指摘を、IT戦略本部の専門員などによって公開のシンポジウムでも報告され、総務省とその周辺における「自治体クラウド」への異常なまでの高い関心を喚起してきた。所沢市で起きていることは、このような問題が人口規模・歳出規模によって「薄められている」だけだ。
 自治体の各種事業の管理部門は、現在「コンピュータのシステム」抜きでは機能しないだろう。「人口35万の自治体ですらスケールメリットを得られない」ような、「大規模自治体」を想定している「電子政府・電子自治体の仕様」がまねく「行政経営上のむだ」は、むしろ、戸籍住基事務以外の多くの行政システムで発生し、集積されているだろう。

 前述したように、所沢市(市町村)は、この「むだ」を回避することができない。端的にそれは、次の2つの、密接に結びつけられた社会的・政治的な状況に起因している。

  1. ネットワーク/ネットワークシステムへの接続が、法制度で義務づけられ強制されている。あるいは、政治的な手法で強制誘導され、他の選択肢が存在しない
  2. ネットワーク接続のために必須となる「プロトコル」が、非常に詳細で高い規律密度を持ち、「モジュール化」(分割)できない「単一のパッケージ」として提供されている。

所沢市は「電子政府・電子自治体というネットワークシステム」に対して「接続」以外の選択肢を持っておらず、このネットワークは全体として「全国一律の仕様で、一元的均質的に動作する」ように、緻密な「プロトコル(システム仕様)」を採用している。
 むろん、多くの行政システムでは「住基ネット」のような高い規律密度の「既存の仕様」を強制されることはないだろう。しかし「電子政府・電子自治体」への接続が、過剰(オーバースペック)な仕様のシステム導入を市町村に要求することに違いはない。強調した言い方をすれば、「歳出の10%をシステム経費が占める」ような小規模自治体では、エクセル上のアプリケーションのような簡易な手段で、それなりに効率的な業務管理ができる。情報共有も、電子メールとWebページ上のフォームがあれば十分なのだ(むろん、もっと便利な管理や情報交換・共有のためのツールを簡易に作ることも可能だ)。

だから問題は、「電子政府・電子自治体のネットワーク・プロトコル」が「エクセルの管理ツールと電子メールによる情報管理・情報交換」を許容しないこと、それがきわめて詳細で硬直した(規律密度の高い)仕様(法制度)として作られていること、そのネットワークが「全国規模の一元的システム」として動作するように構築されていることにある。
 所沢市の住基ネット経費調査の結果は、「住基ネット」が、こうした2000年代当初に策定された「電子政府・電子自治体構想」の負の遺産――「ユビキタス・レガシー」であることを示している。だから所沢市が今必要としているものは、この「ユビキタス・レガシー」に代わる、「市町村によるコストコントロールが可能な電子政府・電子自治体の構想(ネットワーク・プロトコル)」だと言えるだろう。

このコストコントロールは、「電子政府・電子自治体システムの柔軟なモジュール化」を要求し、モジュールの選択(あるいは新たな開発)がそれぞれの地域社会の必要と判断にゆだねられることを意味している。あるいは、どのような情報を誰(市町村・都道府県・国の機関、あるいは非政府の組織・民間事業者など)と共有することが、住民や地域社会のメリットになるかという判断(どのような機能のモジュールを装備するかという判断)も、住民・地域レベルからのボトムアップにゆだねられることを意味している。
 むろん、こうした柔軟性の高い「電子政府・電子自治体のネットワーク・プロトコル」がうまく動作するには、多くの「国レベルにおける法制度改革・組織改革」が必要である。  

●キャンペーン・ニュース
2010.9.12収録 マニュアル&調査票
○キャンペーン・キットを一部改訂 >>こちら
2010.9.4収録 調査レポート
○檜原村・東京(全文公開) >>こちら
2010.8.6収録 調査レポート
○所沢市・埼玉 >>こちら

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●市町村調査レポート
<調査レポート>
 檜原村・東京>> こちら
 所沢市・埼玉>> こちら
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last update : 2009.8.5 / 1st update : 2009.8.3
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