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住基ネット自治体経費調査レポート/檜原村・東京

檜原村調査レポート

非現実的な(シュールな!)住基ネットコスト
 住民1人あたりコスト(住民単価):2,239円
 サービス1件あたりコスト(サービス単価):32,774円

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◆調査レポート・調査マニュアル◆

住基ネット自治体経費追究キャンペーンの予備調査報告(所沢市・檜原村)がそろって公開になりました。
本調査のための実践的なマニュアルがあります。調査活動は思いのほか簡単です! 多くの地域からの「住基ネット自治対経費追究キャンペーン」へのご参加を、よろしく!

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●以下は抄録です。ダウンロード版の調査レポートをご参照ください。

調査方法

主要収集データ項目41項目、調査対象期間2004-2008年度・対照年度2000年度。内公開資料をで収集可能なデータ以外は、自治体に情報提供依頼を行いデータ提供を受けた。詳細は「調査マニュアル」参照。

サマリー

檜原村の調査の結論は、以下の3点に概括できる。

I 檜原村の住基ネット利用住民サービスは、
 使えないのに、あまりにも非現実的な金額がつぎ込まれている


II 檜原村の戸籍住基事務経費(住基ネット経費を含む)は
 一定の効率化の成果をあげているが、
 その多くを住基ネットに「食われて」しまっている


 
III コメント:檜原村は、こうした問題の改善のために
 市町村によるコストコントロールが可能で、
 業務量の削減と「職員の質的能力の拡大」を意図する
 電子政府・電子自治体の構想を必要としている

■檜原村の住基ネット経費

以下の住基ネット経費は、職員人件費を含まない(調査対象年度の通年平均)
檜原村の人口規模:人口:2,825人/歳出:51億円(2008年度)

住基ネットのコスト(2004-2008年度通年平均)

 住基ネット経費:660.7万円
 戸籍住基事務経費に占める比率:27.25%
 住民1人あたり住基ネットコスト(住民単価):2,239.12円
 サービス1件あたり住基ネットコスト(サービス単価):32,774円
 転出転入事務の郵送費試算額に対する
 住基ネット利用通信費の比率:978.7倍
 <参考>
  人口10万人の標準的自治体を基準とする戸籍住基台帳事務経費の
  (逆)スケールメリット:3.68倍

住基カードの普及状況(2008年度)

 住基カード有効普及率:1.37%(有効枚数39枚)
 公的個人認証電子証明書有効普及率:0.32%(有効件数9件)

住基カードの利用状況(2004-2008年度通年平均)

 住基カードを利用した
 転出転入件数(付記転入):0.20件/年(利用総数1件)
 住民票の広域交付件数:10.60件/年(交付総数53件)
 住民票の交付総数に対する広域交付利用率:0.18%
 有効住基カード1枚あたり広域交付件数:0.17件/年
 ・これは、住基人口1人あたり交付件数の約4分の1であった

結論とコメント

I. 檜原村の住基ネット利用住民サービスには、
使えないのに、非現実的な金額がつぎ込まれている

檜原村の「住基ネット」は、かなり奇妙な存在だというほかない。確かに住基ネットは檜原村にある。そして、他のきわめて安価な方法でいくらでも代替えできる行政サービスに、1件あたり32,774円の経費が着実につぎ込まれている。
 現実の檜原村にとって、それはリアルな存在ではない。リアルな世界の向こう側にある「シュールな世界(超現実)」のなにごとかを象徴するために、ひたすらそこで動き続けている「高価なオブジェ」のように見える。

◆使えない行政サービス

檜原村では、「住基カードを利用した転出転入」(「付記転入」手続き)の利用はあまりに少数であり、有効な需要は存在していない。住基カードの有効普及率が1.39%(2008年度)と低迷していること以前の問題として、「付記転入」という住民サービスは、地域住民の暮らしの実態に適合していない、「使えない行政サービス」である。

また、住民票(「住民票の写し」を以下単に住民票と略記する)の広域交付に対する需要も、通年平均で11件であり、これは交付された住民票の0.71%にすぎない。住基人口1人あたりの年間住民票交付件数0.64件に対して、有効住基カード1枚あたりの広域交付件数は約4分の1の0.17件(いずれも通年平均)であった。住民票の交付をよく利用する住民が広域交付を利用しているわけではない。広域交付もまた、「使えない行政サービス」である。

◆サービス単価32,774円、郵送の979倍の通信コスト

これに対して住基ネットのサービスコストを見ると、通年平均で1件あたりのサービスコスト(サービス単価)は32,774円になっている。このサービスの約90%は転出転入事務における市町村間の住民情報の通信であるが、これは住基ネット導入前には1世帯80円の切手代で行われていた事務処理であった。この結果、住基ネットを利用した転出転入事務の通信費は、郵送で処理する場合の通信費に比べて979倍に増大している。

◆サービス単価が低下する見通しはない

サービスの提供数が拡大すればサービス1件あたりコストは低下する。従って、檜原村の2008年度1.39%という住基カード有効普及率が十分に大きくなれば、転出転入事務の通信費は郵送費以下になると言えるかもしれない。
 しかし、檜原村では住基カードの需要は、すでに2008年度で飽和している。転出転入も急速に拡大することはまずない。他の住基ネット利用住民サービスは「使えない行政サービス」であり、サービス利用のために住基カードの需要が拡大する可能性はきわめて小さい。

「使われていないからハイコストになっている」のではなく、「住基ネット利用住民サービスが使えない」ことと「住基ネットがハイコストになっている」こととはそれぞれ独立した「住基ネットの問題」と考える必要がある。

◆一過性だった「インターネット確定申告」のミニブーム

なお、2006年度から2007年度にかけて、「インターネット確定申告」のための住基カードおよび公的個人認証電子証明書の交付が檜原村でも増加していた。しかし2008年度には住基カード交付件数1件となり、この「ミニブーム」は終息している。いずれにしても、檜原村における公的個人認証電子証明書の有効普及率は0.32%(実数で9件・2008年度)であり、これが住基ネットのサービス単価を実質的に低下させる可能性はない。

II. 檜原村の戸籍住基事務経費(住基ネット経費を含む)は
一定の効率化の成果をあげているが、
その多くを住基ネットに「食われて」しまっている


◆檜原村は、戸籍住基事務経費の効率化で一定の成果を上げている

檜原村の戸籍住基事務経費は、2004-2008年度の通年平均で、2000年度に対して77.35%にまで削減されている。小規模自治体にとって避けられない事務処理の非効率性――「人口10万人の標準的自治体」を基準とする戸籍住基事務経費の逆スケールメリットをみても、2000年度の4.14倍に対して通年平均では3.69倍まで効率化の成果が獲得されていた。
 この効率化の主要な要因は、戸籍住基事務担当職員の4人から3への減員、および人件費・通信運搬費以外の「その他の経費」の大幅な削減だった。この「その他の経費」の大部分は、住基ネット以外の戸籍住基事務で使用されているコンピュータシステム(住基台帳本体システムなど)である。

◆効率化の効果の多くは、住基ネットによって「食われている」

しかしこの効率化の効果を、2002年度に追加導入された住基ネットの経費を除外して再評価してみると、金額では72.75%、逆スケールメリットでは2.68倍にまで効率化されていたことが分かる。
 つまり、檜原村の戸籍住基事務における効率化の成果は、その多くが「住基ネットによって食われている」のが現実である。

◆住基ネットのコストは、住基台帳本体システムよりも高額になっている

檜原村の戸籍住基事務経費に占める住基ネット経費の比率は、通年平均で27.25%であったが、「その他の経費」の比率は25.21%であった。
 これは、「その他の経費」に含まれている住基台帳本体システムの経費に比べ、住基ネット経費がかなり高額であることを示している。

市町村の住基ネット(市町村のシステム)は、いわば住基台帳本体システムに外付けされた「外部通信のためのサブシステム」でしかなく、その機能等を考えても本体システムより小規模であるから、これはかなり「奇妙な」関係だと言えるだろう。

◆住基ネットはそのコストから見ても小規模自治体には不適切なシステムである

所沢市の調査レポートでは、住基ネット(電子政府・電子自治体構想)のコスト的特性について、「人口34万人規模の中大規模自治体でもスケールメリットが得られない、大規模設備産業型コスト構造を持っている」と指摘した。
 上記した檜原村の調査結果から、檜原村の住基ネットもまた、このようなハイコスト・ハイスペックのシステムを人口規模に応じてスケールダウンしただけのものであることが、容易に推測できる。この結果住基ネット経費は、戸籍住基台帳事務経費の中で突出している。

III. コメント:檜原村は、こうした問題の改善のために
市町村によるコストコントロールが可能で、 業務量の削減と「職員の質的能力の拡大」を意図する
電子政府・電子自治体の構想を必要としている


◆檜原村には回避できない「非現実的なコストの負担」

このような「非現実的なシステム」の運用をやめることは、檜原村(市町村)にはできない。たとえば、住基ネットの「使えない行政サービス」を停止して、都道府県への本人確認情報の提供だけに限定する「住基ネット」の運用をしても、檜原村の住基ネット経費負担は減額されない。

国立市・矢祭町のように住基ネットの運用全体を停止(切断/不接続)してリース契約を解消するには、「切断の合法性/違法性」という、政治的な「とてもめんどうなテーマ」に正面から取り組まなければならないが、檜原村(多くの市町村)の歳入構造は、そのような政策的選択は不利益で非現実的なものだと判断するだろう。結果として檜原村は、この「シュールな世界(超現実)のなにごとかを象徴する高価なオブジェ」を運用し続けている。

◆しかし「行政システム経費の総額」が、歳出の10%を超える自治体もある

しかし、「小規模自治体で行政システム経費の総額が自治体歳出の10%を超えているのは大きな問題」などとする指摘を、2010年春ころから、IT戦略本部の専門員などが公開のシンポジウムでも行っている。これは、総務省とその周辺における「自治体クラウド」への異常なまでの高い関心を喚起してきた要因のひとつである。

「戸籍住基事務」以外の自治体業務で使われている「行政システム」の経費については、今回の調査範囲に含まれていないため、この指摘がどこまで檜原村で妥当するかは明らかではないが、住基ネットを基幹システムとして位置づける2002年以降の「電子政府・電子自治体構想」による「市町村の行政システム」が、住基ネットに準じる程度に「大型設備産業型」の特性を持つものであっても不思議はない。いずれにしても中央政府関係者は、現在の市町村の行政システムコストが、「小規模自治体には適切なものになっていない」ことを承知している。

◆「むだの認識」を拒否する電子政府・電子自治体の「制度」

前述したように、檜原村は、このような「むだ」をむだとは理解していない。端的にそれは、次の2つの密接に結びつけられた社会的・政治的な状況を形式的な根拠にしている。

  1. ネットワーク/ネットワークシステムへの接続が、法制度で義務づけられ強制されている。あるいは、政治的な手法で強制誘導され、他の選択肢が存在しない。
  2. ネットワーク接続のために必須となる「プロトコル」が、非常に詳細で高い規律密度を持ち、「モジュール化」(分割)できない「単一のパッケージ」として提供されている。

檜原村は「電子政府・電子自治体というネットワークシステム」に対して「接続」以外の選択肢を持っていない。このネットワークには、全体として「全国一律の仕様で、一元的均質的に動作する」、緻密な「プロトコル(システム仕様)」が採用されている。

むろん、多くの行政システムでは「住基ネット」ほど高い規律密度が強制されることはないだろう。しかし「電子政府・電子自治体」への接続が、過剰(オーバースペック)なシステムの導入を市町村に要求することに違いはない。強調した言い方をすれば、「歳出の10%をシステム経費が占める」ような小規模自治体では、エクセル上のアプリケーションのような簡易な手段で、それなりに効率的な業務管理、執行ができる。情報共有も、電子メールとWebページ上のフォームがあれば十分なのだ(むろん、もっと便利な管理や情報交換・共有のためのツールを簡易に作り、市町村間で共有(シェア)することも可能だ)。

だから問題は、「電子政府・電子自治体のネットワーク・プロトコル」が「エクセルの管理ツールと電子メールによる情報処理・情報交換」のような、シンプルで安価なやり方を許容しないこと、それがきわめて詳細で硬直した(規律密度の高い)仕様・制度として創られていること、そのネットワークが「全国規模の一元的システム」として動作するように構築されていることにある。

◆「ユビキタス・レガシー」の克服――市町村によるコストコントロール

所沢市で行った住基ネット経費調査の結果は、「住基ネット」が、こうした2000年代当初に策定された「電子政府・電子自治体構想」の負の遺産――「ユビキタス・レガシー」の象徴的な「設備」であることを示していた(「調査レポート 所沢市」参照)。
 このユビキタス・レガシーは、所沢市では「従来の人件費の上に、新たにシステム経費を追加」する「上乗せ設備投資」の産物であり、30万人規模の中大規模自治体でも「郵便時代の20倍の通信費」が要求されるような「設備産業型システム」であった。

遅かれ早かれ檜原村(多くの市町村)は、この「ユビキタス・レガシー」に代わる、「市町村によるコストコントロールが可能な電子政府・電子自治体の構想」を必要とすることになるだろう。それを「今すぐ必要だ」と考えるか「当分必要ない」と考えるかは、それぞれの市町村(行政機関)の財政事情に左右される。たとえば地方交付税交付金制度と国や都道府県の支出金などで財政自主能力を奪われている檜原村のような小規模自治体は、「当分必要ない」と考えるだろう。しかし、近年の中央政府の財政状況が、これを「今すぐ必要」とする水準にあることもまちがいない。

中央政府は「自治体クラウド」によって「ユビキタス・レガシー」のコストを2分の1ないし3分の1にできると期待しているようだが、これは檜原村における住基ネットサービス単価が2万円ないし1万円になることでしかない。このサービス単価は依然として「シュール」だ。

◆柔軟性の高い「電子政府・電子自治体」の要件

前述した「自治体によるコストコントロール」は、「電子政府・電子自治体システムの柔軟なモジュール化」を要求し、モジュールの選択(あるいは新たな開発)がそれぞれの地域社会の必要と判断にゆだねられることを意味している。あるいは、どのような情報を誰(市町村・都道府県・国の機関、あるいは非政府の組織・民間事業者など)と共有することが、住民や地域社会のメリットになるかという判断、どのような機能のモジュールを「私たちの町の電子自治体」に実装するかという判断も、住民・地域レベルからのボトムアップにゆだねられることを意味している。

◆小規模自治体が必要とする「電子政府・電子自治体」の追加要件

これに加えて、今回の檜原村における調査で明らかになった小規模自治体に適合する「電子政府・電子自治体構想の要件」は、より少数の職員で多様な業務を遂行できるように支援するシステム、「職員の質的能力の拡大」を提供するシステムという課題であった。
 このようなシステムの特性は、制度的な「業務量自体の削減」が前提となり、単なる「新しいコンピュータ技術の導入」や「システムの高速化・大規模化」で実現できるものではとうていない。

むろんこうした、柔軟性が高く同時に「職員の質的能力の拡大」を提供するような「電子政府・電子自治体のネットワーク・プロトコル」がうまく動作するには、多くの「国レベルにおける法制度改革・組織改革」が必須であり、そのためには相当長い移行期が必要になるはずである。

●キャンペーン・ニュース
2010.9.12収録 マニュアル&調査票
○キャンペーン・キットを一部改訂 >>こちら
2010.9.4収録 調査レポート
○檜原村・東京(全文公開) >>こちら
2010.8.6収録 調査レポート
○所沢市・埼玉 >>こちら

●調査マニュアルと資料
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●市町村調査レポート
<調査レポート>
 檜原村・東京>> こちら
 所沢市・埼玉>> こちら
<地域独自調査レポート>
 名古屋市・愛知(地域独自調査)>> こちら

反住基ネット連絡会(コスト・キャンペーン)
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last update : 2009.8.5 / 1st update : 2009.8.3
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